非合理な投資が、人を生かす——Daniel Coyle『Flourish』を読んで

合理性の外にある時間や関係が、なぜ人を支えるのか。未邦訳『Flourish』から考えました。
秋山ゆかり 2026.03.30
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Doingで走ってきた私が、Beingに引っかかった

効率よく生きることは、得意でした。

考える。決める。動かす。前に進める。

私はずっと、Doingで道を切り開いてきた人間です。

そんな私が、Daniel Coyle(ダニエル・コイル)の新著『Flourish』(未邦訳)を読みながら、ずっと考えていたのは、DoingではなくBeingのことでした。

戦略コンサルでも、事業開発でも、大企業の意思決定の現場でも、まず求められてきたのは「何をするか」でした。打ち手は何か。優先順位はどうか。どこに資源を張るか。どの構造を変えるか。

その世界で長く生きてきた私は、Doingの力を心から信じています。実際、それで道を切り開いてきました。キャリアの節目ごとに問われたのは、「何ができるか」であり、「何をやったか」でした。そういう問いに答え続けることで、今の私があります。

同じ理由で、コイルの前作『The Culture Code(カルチャーコード― 最強チームをつくる)』もとても好きでした。文化を感覚論ではなく、再現可能な構造として捉えようとする視点に、ずいぶん励まされました。あの本は、「よいチームはどうつくられるか」という問いに精度高く答えてくれる本です。ビジネスの現場にいる人間として、あの本の視点はとても使いやすかった。だから今回の『Flourish』も、最初はその延長線上で手に取ったのです。なお、まだ日本語訳は出ていませんが、英語は平易で読みやすく、今の私には妙に深く刺さる一冊でした。

読んでいて感じたのは、『Tカルチャーコード』が「よい文化はどう作られるか」を教えてくれる本——いわばDoingの本だったとしたら、『Flourish』はもっと静かに、「人は何によって生かされるのか」を問いかけてくるBeingの本だということです。

Doingの本だと思って開いたら、Beingの本だった。 私には、そんなふうに読めました。そして、それがちょうど今の私に必要なものでした。

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続きは、3283文字あります。
  • 極限状態で自然に生まれた、歌と秩序
  • 非合理な投資が、文化をつくり、人を育てる
  • 「それは人を生かすか?」という問い

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