限界のなかで気づいた、“暮らしを再設計する”セルフケア戦略
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「整える」は、私を取り戻す第一歩
ゴールデンウィークって、不思議な時期です。
新年度が始まって、走り出した日々にようやく慣れてきたころ。気が張っていた心と体が、ふっと緩む——そんな「折り返し地点」だからこそ、自分を整え直すにはぴったりのタイミングだな、と感じています。
そんな時期に、ふと思い出して、手に取ったのがこの一冊でした。
『ニュージーランド式 24時間やせる身体をつくる ベストセルフダイエット』(以下、ベストセルフダイエット)——タイトルだけ見ると「痩せる本?」と思われるかもしれませんが、実はまったく違います。これは、生活を立て直すための現実的なセルフケア戦略。無理をするのではなく、自分を労わりながら、基盤から再設計していく。「暮らしの設計図」と呼びたくなるような一冊です。
著者のmikikoさんは、筑波大学で健康増進学を学び、修士号を取得したのち、フィットネス最先端のニュージーランドで、国家資格を持つパーソナルトレーナーとして活躍している方。Les Mills発祥の地で、東洋と西洋の知を融合したメソッドを確立し、今や多くの人が、その指導を求めて訪れる存在です。
でも彼女の言葉は、決してストイックではありません。むしろ、体に寄り添い、自然に寄り添う、やさしい提案ばかり。“もっと頑張れ”じゃなく、“もう少し力を抜いていいよ”と語りかけてくれる、そんな温度がありました。
「休むことも立派なトレーニングである」
「運動するよりもまずは、寝る時間を確保しなさい」
「ホルモンが乱れた時に身体はコントロール不能になる」
「心身に優しい環境を長期的に維持していけば、臓器も本来の働きを取り戻し、エネルギーを効率的に使える身体になっていく」
どれも、私たちが日々見落としがちな“身体との対話”を思い出させてくれる言葉ばかりです。
今、多くの人が「なんとなく調子が出ない」「疲れが抜けない」という不調を抱えています。
その原因は、単に休息不足だけではなく、もっと根本的な「身体のリズムの崩れ」にあるのかもしれません。
病室で知った、“支える側”の限界
実は、私は長いあいだ病室で過ごしていました。
ムスメが1歳を過ぎたころから入退院を繰り返す生活がスタート。小児病棟に⼊院したムスメに24時間付き添う日々。毎日が緊張の連続で、自分の体を気遣う余裕などありませんでした。やがて体力は底をつき、免疫力が低下。何度も肺炎を繰り返すようになりました。
「私、もうこれ以上、誰かを支えられないかもしれない」——そう思ったとき、“自分の基盤”を立て直そうと決めました。
病院での付き添い生活は過酷でした。24時間子どもから離れられず、感染症予防のため院内のコンビニすら行けない。子どもには食事が出ますが、付き添いの親には何も出ません。
私はカロリーメイトやゼリー飲料を大量に持ち込み、それを3食の代わりに。フレッシュな野菜や果物は、入院初日の贅沢品でした。さらに、ムスメが2歳半を過ぎるまでは精神安定剤の役割もあると医師に言われ、授乳も続けていました。
母親しか泊まれない病院もあります。これは、過去に男性の付き添いが原因で性犯罪が発生したケースがあるためだそうです。つまり、この役割は誰かにアウトソースできるものではありませんでした。
そんな中、mikikoさんのSNSに出会い、彼女の視点を取り入れ始めました。まず、睡眠を改善すべく、朝日を浴びる習慣、寝る前のブルーライトカット。ストレスを肉体的・精神的なものにわけ、コントロールできるもの・できないものに分けて、コントロールできるものから手をつけていく——小さな変化を積み重ねていったのです。
病室という限られた空間でも、できることはありました。窓際に立って朝日を浴びる、狭いスペースでのストレッチ、深い呼吸——。これらの積み重ねが、大きな変化を生みだしていきました。
「食べ方」より「生き方」を変える本
『ベストセルフダイエット』が提案するのは「食事」ではなく「暮らし」のリデザイン。 姿勢、食事、睡眠、水分の取り方、ストレスとの付き合い方——どれもが身体を再構築する要素として扱われています。これは単なる健康本ではなく、暮らしの根っこから体を見直す戦略書だと感じました。
例えば、姿勢を整えるために「空から背骨がひっぱりあげられている」ような意識を持って立つだけで、自然と背筋が伸びていきます。私は、姿勢をチェックできるように病院の椅子の位置を変え、窓に映る自分を観察することで、無意識の癖をひとつずつ修正していきました。
また、朝の光を浴びることで体内時計が調整され、夜の睡眠の質が上がるという好循環。これも原因と結果がループ状につながる“暮らしの生態系”そのもの。身体はシステムとして動いているのだと、実感させられました。
mikikoさんは、「健康とは、カラダづくりだけでなく、ライフスタイルの創造だ」といろいろな表現で繰り返し語ります。自分に合った体型や生活リズムを探ることは、試行錯誤の連続。そのプロセスこそが、最適な自己設計につながっていくのです。
見落としがちな、最大の資産:健康
ビジネスパーソンである私たちは「時間」「お金」「知識」「人脈」といったリソースを戦略的に配分することには長けています。しかし、「健康」という最も根幹にあるリソースを、いつの間にか無意識に切り崩していることがあるのではないでしょうか。
私も、娘の看病に全力を注ぐあまり、自分の健康を後回しにしてしまったひとりです。免疫力が落ち、肺炎を繰り返すなかで、「自分が倒れたら何も守れない」という厳しい現実に向き合うことになりました。
ビジネスの世界では「リスクとリターン」を比較検討するのが常識です。ならば、健康も同じように捉えるべきではないでしょうか。睡眠時間を削って成果を出す——その短期的なリターンが、どれだけの長期的損失につながるかを見直す必要があります。
健康的な食事、適度な運動、良質な睡眠は「自己満足」ではなく、「戦略的投資」なのです。
身体から、主体性を取り戻す

忙しさのなかで、私たちは自分の身体を“他人ごと”のように扱ってしまいがちです。私もまさにそうでした。娘のケアに追われ、自分の身体の声に耳を傾ける余裕をすっかり失っていたのです。
でも、mikikoさんの提案に触れるうちに、「光を浴びる」「深く呼吸する」といった些細な行動が、自分を取り戻す入り口になっていきました。
BCG時代に読んだ『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー著)にあった「主体性を発揮する(Be Proactive)」という考え方。それを身体レベルにまで落とし込んでいく感覚です。
「影響の輪」と「関心の輪」を意識し、まず自分が動かせるものにエネルギーを注ぐ。身体においても同じで、「いま、何が自分の管理下にあるのか」を見極めることで、無力感が小さくなっていきました。
私自身も、日々のストレス源をリスト化し、コントロール可能なものに優先順位をつけて取り組みました。スケジュール帳に“自分時間”を組み込むことで、ほんのわずかでも「主導権が戻ってきた」感覚が得られるようになりました。
外の世界を完全に変えることはできないけれど、自分の反応を変えることはできる。そう気づいたとき、自分の軸が戻ってきた気がしたのです。
明日から使える、身体の再設計メソッド
この本の素晴らしさは、「哲学」と「実践」の両輪で語られている点です。 読んだその日から、試せるアイディアが満載なのも魅力でした。
たとえば:
• 体質を理解すると、無理をしなくなる
• 手のひらで適量を知る「指標食事法」
• 水分摂取は“量”ではなく“体調の変化”で考える
• 食後30分〜1.5時間に軽い運動を取り入れて、ホルモンバランスを整える
どれも育児中や病室でも実践しやすく、実際、私は食後に足踏みを取り入れるだけで、疲れ方が変わるのを感じました。
わたしの“基盤リセット”実践録
私の「整える」ジャーニーは、小さな積み重ねの連続でした。
緊張が抜けず「緩める」が苦手だった私は、まず瞑想から取り入れました。Calmというアプリを使い、1日5分でも心と体を落ち着かせる時間を確保。
睡眠の改善にも取り組みました。病室では細切れの仮眠しか取れなかったため、ムスメのわずかな退院中は昼寝も含めて睡眠負債を解消する時間を意識的に作りました。
食生活もリセット。週末に野菜スープを作り置きし、温かい食事を摂る工夫をしました。
現在は仕事に行く前の早朝に筋トレを行い、ムスメとのウォーキングを日課に。生活全体が、少しずつ「自分のもの」として戻ってきたのです。
mikikoさんの教えがくれたのは、「制限する」のではなく、「調律する」というセルフケアの視点でした。
不確実な時代の「確かな自分」
先行きの見えない時代にこそ、揺るぎない“内的な軸”が必要です。 気候変動、経済変動、パンデミック。社会の大きな波は、私たちには制御できません。でも、自分の呼吸、姿勢、食事、睡眠には、手が届きます。
不安定な社会の中で、「身体」という確かな足場を取り戻すこと。 それは、私たちが“自分を信頼する力”を育てることでもあるのです。
身体と向き合うことで、人生は静かに動き出す
「身体を整えることは、人生を整えること」。
いま思えば、あのときの私に必要だったのは、そんな視点でした。
私たちの身体は、日々、小さな声で何かを訴えています。 その声に耳を澄ませ、できる範囲で応えていく——。 そうして止まっていた時間が、少しずつ動き出す瞬間が訪れるのです。
コロナ禍を経て働き方や暮らし方は変わりました。テレワークは減りつつある一方で、人間関係や自然とのつながり、自分自身との距離感は、いまもなお曖昧なまま。分断の時代と言われる今だからこそ、私たちは「身体」という確かな軸を必要としているのではないでしょうか。
このゴールデンウィーク、ほんの少しだけ立ち止まって、自分に問いかけてみてください。 「私は、どの部分を“自分の管理下”に戻せばいいだろう?」
呼吸を深くする、光を浴びる、眠る前にスマホを置く——。 その積み重ねが、半年後のあなたを確かに変えていきます。
『ベストセルフダイエット』は、そんな変化への“静かなアップデート”を促してくれる一冊です。
ロジカルでありながら、やさしさがあり、そして何より、行動を後押ししてくれる設計。
戦略を生み出すには、情報や分析だけでは足りません。 その土台となる「身体の状態」を整えることこそ、最初にして最大の投資なのだと、私は思います。
かつて、身体を見失っていた私がそうだったように。 いま、少しでも立ち止まりたいと願っているあなたに、この一冊が届きますように。
この連休、自分とそっと手を結びなおす時間を。

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