働き方の「聖域転換」から脱出する——『タイム・バインド』とワーク・ライフ・バランス研究が教える真の両立術

働き方の「聖域転換」から脱出する——『タイム・バインド』とワーク・ライフ・バランス研究が教える真の両立術
秋山ゆかり 2025.08.25
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「家庭を大事にしたい」と思っているのに、なぜか仕事を優先してしまう——。 そんな経験はありませんか? 実はその問いに、アーリー・ラッセル・ホックシールドの『タイム・バインド』が答えを投げかけてくれます。

コロナ禍で働き方が一変し、在宅勤務が日常化した今こそ読み返したい一冊です。1990年代のアメリカで書かれたにもかかわらず、この本が現代の日本で働く私たちに投げかける問いは切実です。 なぜ多くの人が「家庭第一」と口では言いながら、実際には長時間労働を選択してしまうのか?

先日、認定心理士の会で行われたワーク・ライフ・バランスの研究発表を聞きながら、私はこの古典的名著の洞察の深さを改めて実感しました。

職場が「聖域」になる逆説

ホックシールドが発見したのは、衝撃的なパラドックスでした。

「ファミリー・フレンドリー」を謳う先進企業で3年間調査を行った結果、フレックスタイム、パートタイム、育児休業といった制度があるにも関わらず、実際に利用する従業員はほとんどいなかった。それどころか、多くの人が自発的に長時間労働を選んでいたのです。

理由は経済的な不安だけではありませんでした。職場が、家庭よりも「居心地の良い場所」になっていたのです

  • 職場では努力が認められ、評価される

  • 大人同士の知的な会話がある

  • 秩序があり、問題には解決策がある

  • 仲間意識と達成感を得られる

一方で家庭は:

  • 終わりの見えない家事と育児

  • 泣き叫ぶ子どもと夫婦間の緊張

  • 誰も評価してくれない無償労働

  • 混沌とした日常

この「聖域転換」は、現代の私たちにも当てはまるのではないでしょうか。

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続きは、2387文字あります。
  • サード・シフトという見えない労働
  • 解決の鍵は「境界管理」にあり
  • 私自身の境界管理術
  • ポジティブ・スピルオーバーを活用する
  • 更年期女性への特別な配慮
  • まとめ:境界のない時代の生き抜き方

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