ムスメと味わう「ことばのかき氷」──感性が育つ辞典の時間
偶然の辞典、偶然の時間
夏休みの終わり。あまりにも暑くて、もう出かける元気もなく、私はリビングの冷房の下で、本棚の隙間に挟まっていた『空と海と大地の言葉辞典』をパラパラとめくっていました。
実は、この辞典は7月に仕事の資料として購入したものの、いつの間にか他の本に埋もれて忘れられていた一冊。なんとなく手に取ったのは、夏の疲れでぼんやりしていた私の、本当に偶然の行動でした。
そこにムスメが「それ、なに?」と覗き込んできて、「あけたページに出てきた言葉で遊ぼうよ」と提案してくれたのが、すべての始まり。
普段の私なら、「お仕事の本だよ」と言って片付けてしまっていたかもしれません。でも、その日は違いました。疲れていたからこそ、いつものように「効率よく過ごそう」という気持ちが薄れていたのかもしれません。「一緒に見てみる?」という言葉が、自然に口から出ました。
鰊曇り(にしんぐもり)。日照り雲(ひでりくも)。紫雲(しうん)。
ページをめくるたび、見たこともない言葉が現れます。ムスメは、まるで宝探しをしているみたいに目を輝かせて、ひとつひとつの言葉に反応していきました。
「この雲、かき氷にしたらどんな味かな?」「においはするの?」「紫雲ってぶどう味かもね」
くだらない話で笑い転げながら、私はふと気づきました。大人だったら、「意味は?」「語源は?」「使い方は?」とすぐに定義に走ってしまいそうな言葉たち。でもムスメは違う。言葉を「感じて」「味わって」「世界と遊んで」いるのです。