アンディ・グローブの「転換点の法則」~キャリアとビジネスを生き抜く思考法

インテルは生き残り、フジテレビは迷走した——その分かれ道はどこにあったのか? あなたの業界にも、キャリアにも、転換点は必ず訪れる。アンディ・グローブの知恵と実際の経験をもとに、変化を乗りこなすヒントを考えてみよう。
秋山ゆかり 2025.02.28
誰でも

30年ほど前、私は新卒でインテルで働いていました。当時のCEO、アンディ・グローブは「決断しないことが最大のリスクだ」と繰り返し語っていました。その言葉は、今もなお私のキャリアの指針となっています。最近のフジテレビの迷走を見て、私はあらためて『パラノイアだけが生き残る』の重要性を実感しました。

パラノイヤ=病的なまでの心配性。生存のためには、変化を警戒し続けることが不可欠です。

「企業が変化の兆しを無視すると、ピークを迎えた後に衰退する」
アンディ・グローブ

「戦略的転換点(Strategic Inflection Point)」——これは、企業や個人が大きな変化の波に直面する瞬間を指します。適切に対応すれば成長のチャンスとなり、誤れば衰退につながります。その分かれ道をどう見極め、どのように行動するかが、未来を決めるのです。

本記事では、『パラノイアだけが生き残る』のエッセンスをもとに、インテルの成功とフジテレビの迷走を比較し、「転換点」を乗り越えるための考え方を探ります。

決断しないことが最大のリスク

「10年後、あなたの会社は生き残っているだろうか?」
アンディ・グローブ

アンディ・グローブは『パラノイアだけが生き残る』の中でこう語っています。

「戦略的転換点は予測が難しいが、すべての企業はそれを乗り越えるべく設計されている。」
アンディ・グローブ

フジテレビの記者会見を見ながら、私はこの言葉を思い出しました。彼らが直面している問題は、不祥事の対応のまずさだけではなく、テレビ業界が「独占から自由競争へ移行している」変化を見極められなかったことにあります。

これまで規制や既得権で守られていた産業は、内部での独自文化や慣行が温存されやすい傾向があります。例えば、長年男性中心の企業文化が強く根付いていた場合、セクハラやパワハラ的な行動が当たり前とされ、外部からの監視や改革が入りにくい環境でした。しかし、自由化であったり外資の影響を受けると、旧来文化への目が厳しくなり問題が露呈しやすくなるのです。例えば、N銀行京都支店長事件のセクハラ問題をはじめ、すでに規制緩和が進んだ金融市場では、こうした問題が次々に顕在化しています。

フジテレビの本当の問題は、こうしたスキャンダルそのものではありません。転換点に直面しているにも関わらず、自分たちがどのような未来を描き、どのように変革していくかという明確なシナリオが見えないことこそが、本質的な問題なのです。

10倍の変化を見抜け!『パラノイアだけが生き残る』の教え

アンディ・グローブは、転換点を乗り越えるために「10倍の変化(10X Change)」という概念を提唱しました。

1. 変化は徐々に進むが、ある臨界点で一気に爆発する

テレビ業界の衰退は、昨日今日始まった話ではありません。2010年から2023年の間に、テレビ広告費は停滞する一方、インターネット広告費は4倍以上に拡大しました。10代の若者のテレビ視聴時間は1日40分にまで減少し、ネット利用時間は4時間を超えています。これは、まさに「10倍の変化」です。

2. 過去の成功体験が、未来の転換点を見誤る原因になる

フジテレビは「テレビは不滅」「広告モデルは変わらない」という思い込みに縛られていました。過去の成功があるからこそ、新たな競争環境を受け入れるのが難しくなるのです。

3. 転換点を乗り越えるには、「10倍の変化」を想定せよ

インテルがメモリからプロセッサへ転換したように、フジテレビも思い切った戦略変更を発表すべきだったのではないでしょうか?

インテルは転換点をどう乗り越えたのか?

一方、インテルは1980年代に戦略的転換点に直面しました。日本企業の台頭により、メモリ事業は激しい価格競争にさらされ、利益が減少。社内では「インテルはメモリで生きてきた。メモリなしに未来はない」との声が強く、方向転換は容易ではありませんでした。しかし、グローブはメモリ事業を手放し、マイクロプロセッサへと大胆にシフトする決断を下しました。

私はインテル時代に、アンディ・グローブの決断を間近で見てきました。新技術によってインテルの競争力を高めようとした私たちは、ある重要な視点を見落としていました。グローブは消費者の動向を分析し、「市場が求めるのはこれではない」と断言。テストを兼ねたサービスローンチはしたものの、わずか2か月でプロジェクトは打ち切られました。そこで私は、「転換点のサインを見逃さないこと」の重要性を学びました。

「技術革新が絶え間なく進む現代では、競争がますます激化している。」
アンディ・グローブ

転換点は一度乗り越えたら終わりではない

インテルはメモリ事業からプロセッサ事業へ転換し、大成功を収めました。しかし、今まさに同社は転換点に直面しています。半導体市場の競争が激化し、技術革新のスピードが加速する中、経営の意思決定が重要な局面を迎えているのです。

企業の歴史を振り返ると、一度転換点を乗り越えたからといって、その後もずっと安泰でいられるとは限りません。むしろ、繰り返し変化に適応し続ける企業こそが生き残ります。

「変化の存在を否認していると、適切なタイミングを逃してしまう。」
アンディ・グローブ

これは、個人のキャリアにも当てはまります。一度成功したキャリアパスに固執しすぎると、新たなチャンスを見逃してしまいます。「過去の成功に安住することこそが最大の敵」だというのは、企業だけでなく、私たち自身にも当てはまるのではないでしょうか?

「知のジャグリング」で転換点を乗り越える

私はITエンジニア → 戦略コンサルタント → 事業開発 → 経営者 ×声楽家×研究者と常にダブル・トリプルのキャリアを歩んできました。

「全く別の道に見える」と言われることもあります。しかし、実際はすべてがつながっています。ITの論理的思考は戦略立案に役立ち、音楽の表現力はビジネスプレゼンテーションに応用できます。舞台を作り上げるスキルは、新規事業の人を巻き込む力となっています。異なるスキルを組み合わせることで、新たな価値を生み出す——これが「知のジャグリング」です。

転換点に直面したとき、過去の経験を単なる「成功体験」にするのではなく、新たな視点で活かすことが重要です。

あなたのキャリアにも「転換点」はある

企業だけでなく、個人のキャリアにも転換点は訪れます。あなたの業界は、5年後も今と同じ姿でいるでしょうか?

変化を恐れず、シグナルを察知し、適応すること。それが、企業の存続も、キャリアの未来も決めるのです。

ただ、転換点を迎えたときに「自分一人で答えを出せる」と思い込んでいませんか?どんなに優秀な人でも、環境の変化を完全に読み切るのは難しいもの。そんなとき、他者の視点を借りて思考を深める「壁打ち」の力がものを言います。

   『パラノイアだけが生き残る』  は、転換点を乗り越えるための必読書です。
そして、これからも「変化を乗りこなすための思考法」を探求していきます。

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