「こんなはずじゃなかった人生」を愛するという選択―Melanie Daleの『It’s Not Fair』に学ぶ希望の哲学

人生が思い通りにいかないとき、どうすれば前を向けるのか?――母として、戦略家として、私が出会った「救い」の一冊。
秋山ゆかり 2025.05.12
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ロジックが通じなかった日々と、母としての葛藤

戦略コンサルタントとして培った論理的思考、GEや日本IBMでの管理職・事業開発経験、そして何より「計画を立て、実行し、成功に導く」という自負。それが私のキャリアでした。人生のあらゆる場面で、ロジックと戦略を駆使して道を切り開いてきたつもりでした。

それなのに、母親になってから直面したのは、どんな計画も戦略も通用しない現実でした。

ムスメの慢性疾患。入退院の繰り返し。手術のたびに病室で過ごす長い夜。そして、周囲から浴びせられる言葉の数々。

「高齢出産だからでしょう」

「親の責任よ」

「計画的じゃなかったんじゃない?」

まるで、私の人生設計の甘さがムスメの病気を招いたと言わんばかりの声。

私自身も、手術室に向かうムスメの小さな背中を見送りながら、何度も自問しました。

「なぜ、私はこの子をこんな風にしか産んであげられなかったのだろう」

慢性疾患が発覚したときも、不適切保育によるPTSDの診断が下ったときも、私は必死に「原因」を探し、「解決策」を見出そうとしました。まるでビジネスの問題を解決するように。

でも、人生にはロジックでは解けない問いがあります。戦略では乗り越えられない壁が、確かに存在するのです。

私はそのとき、はじめて「受け入れる」という選択肢に向き合うことになったのです。

病院の待合室で見えた現実

病院の待合室の空気には、名前のない感情が漂っている

病院の待合室の空気には、名前のない感情が漂っている

ムスメの検査、入院、手術、術後の検査。そのたびに、私の心は削られていきました。

昨年の12月、大学病院の小児外科での検査中のこと。検査室で、3~4歳くらいの男の子が採血のために大暴れ。私は予約時間を2時間以上過ぎて待っており、11時の会議をリスケするべきか悩んでいました。男の子は泣き叫び、お母さんを蹴り飛ばし、看護師さん6人がかりで捕まえる事態に。

その母親が泣きながら「いつまでこの状態が続くんでしょうか」と看護師さんに尋ねているのを聞いたとき、私は思わず心の中でつぶやいていました。「うちなんて9歳になっても大暴れよ……」

先週のムスメの採血でも、同じように看護師さんたちに大変な思いをさせたばかりだったのです。

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続きは、3506文字あります。
  • 声をかけただけで、涙がこぼれた
  • 「It’s Not Fair」が救いの言葉になるとき
  • 与えられた現実を生きる力
  • ありのままを受け入れるということ
  • 小さな奇跡が起きるのは、不完全な日々のなかで
  • 「選び取る」人生の先にある光
  • ムスメが放った、すべてを変えるひと言
  • 本を閉じて、前を向くとき

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