女性が夢を諦めないために──『ロスノフスキ家の娘』が教える未来の切り開き方

「結婚、出産、キャリア…全部は無理?」そんな不安を抱えるあなたへ。『ロスノフスキ家の娘』が教えてくれる、しなやかに道を切り開くヒントとは?
秋山ゆかり 2025.03.21
誰でも

先日、ある取締役会の後、ふと書棚から手に取ったジェフリー・アーチャーの『ロスノフスキ家の娘』(注1)。高校時代から何度も読み返してきた一冊ですが、今回は違う視点で読んでみました。ビジネスの最前線に立つ私自身の経験を通して見ると、この物語には思いのほか多くの実践的な知恵が隠されていることに気づいたのです。
(注1:ジェフリー・アーチャーのドラマ化された小説『ケインとアベル』の続編)

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社会の壁を超える女性の指南書

本書の主人公、フロレンティナ・ケインは、ポーランド移民の娘として生まれながら、強い意志と努力でビジネス界と政界を駆け上がっていく女性です。彼女の物語は、まさに「女性が社会の壁を打ち破るための指南書」と言っても過言ではありません。彼女の人生を通じて、読者は「努力すれば道は開ける」という希望を感じることができます。

しかし、それだけではありません。この物語には、野心、愛、裏切り、そして家族との葛藤といった、私たちが日常で直面するさまざまな問題が詰まっています。女性が社会で成功を掴むためには、単なる努力だけではなく、戦略的な思考と、時には大きな犠牲も必要であることを示唆しているのです。

特に、フロレンティナが感じた家族との葛藤は、日本の女性にとっても共感できる部分でしょう。彼女は、父親の期待を背負いながらも、自分の道を選ぶことで親との対立を経験します。また、結婚後は仕事と家庭の両立に悩み、愛する人との関係を犠牲にしなければならない瞬間もあります。キャリアを追求する中で、家族を優先すべきか、それとも自分の夢を優先すべきかという葛藤は、多くの女性が直面する問題です。本書は、そうした葛藤をどのように乗り越え、どのように自分らしい生き方を選択していくのかを考えるヒントを与えてくれます。

見えない壁を打ち破るには?

20年以上前、コンサルティング業界に足を踏み入れた頃を思い出します。クライアントの会議室に入るたび、唯一のスカート姿の私は「お茶を持ってきてくれる?」と言われることが日常でした。それは今でこそ笑い話ですが、当時は毎回「私はコンサルタントです」と言い直すのにエネルギーを使いました。すると、上司に「女のコンサルタントじゃなくて、男に変えて」と言われるのが常。かばってくれる上司もいれば、何も言わない上司もいて、コンサルタントとして認めてもらえるように男性の数倍働くことでしか、自分の存在価値を出せませんでした。

アメリカでさえ女性大統領は誕生していません。ヒラリー・クリントンのような圧倒的なキャリアと実績を持つ人物でさえ、最後の壁を突破できなかったのです。日本においては、東証プライム上場企業の女性役員比率はようやく16.8%(2024年7月時点)に達したところです。この現実を前に、フロレンティナの物語は今も色褪せない指針となります。

逆境を力に変える方法

フロレンティナは、幼い頃から並外れた知性とリーダーシップを持っていました。しかし、彼女が進む道には常に障害が立ちはだかります。ビジネス界に足を踏み入れると、男性社会の厳しさに直面し、政界に進出すれば、より大きな偏見と戦わなければなりません。

これは、現代社会の女性たちが直面する問題と共通しています。日本においても、女性が管理職に就く割合はまだ低く、政治の世界でも女性リーダーは少数派です。本書を読むことで、私たちは「何が女性の成長を妨げているのか?」を深く考えさせられます。

また、フロレンティナの成功ばかりではなく、身から出た錆系の失敗談や、夫リチャード・ケインに出逢うまでの男性運の悪さなど、さまざまなトラブルも描かれていて、そんな中でも信念を貫く姿は、困難に直面したときにどう行動すべきかのヒントを与えてくれます。彼女は失敗を恐れずに前進し続けます。この姿勢こそ、私たちが学ぶべき最大のポイントかもしれません。

GE時代に学んだ“生き抜く戦略”

30代の頃、GEで働いていた私は、「男性社会で成功する方法」を徹底的に指導されました。発言の仕方、会議での振る舞い、プレゼンテーションの技術—すべてが「男性中心の組織文化」に適応するためのものでした。その内容は日経ビジネスオンライン(注2)などでも発表してきましたが、振り返ると、それは確かに組織内を登っていくための有効な手段でした。
(注2:日経ビジネスオンラインでの連載は、ディスカヴァートゥエンティワンから大幅編集・書き下ろしをして2冊の本となって出版されています。ご興味のある方は、リンク先をご確認ください)

ある上司からは「感情を見せるな」と言われました。別の上司からは「根回しをしろ」とアドバイスされました。これらの「ルール」に従うことで、私は確かに組織内での評価を高めることができました。フロレンティナも同様に、最初は「ゲームのルール」を学び、それに従うことで道を切り開いていきます。

「仕方ない」の先にある未来

ある若手女性社員から「秋山さんはスーパーウーマンだから」と言われた時、思わず苦笑いしました。私の背後には幾度となく泣いた夜があり、家族との葛藤があり、時には自信を失った日々があります。フロレンティナも同じです。彼女は決して「生まれながらの勝利者」ではなく、むしろ失敗と再起の繰り返しの中で成長していきます。

私自身、キャリアも家庭も両立していると見られることも多いですが、妊娠・出産が順調に進んだわけではありません。流産を繰り返し、部下の産休・育休中の仕事を引き取るときには、そっと涙を流したこともあります。妊娠中は切迫早産で半年ほどベッドに寝て過ごしました。この時、完全に仕事からリタイアすると取引先は考えていたようですが、逆にベッドの上からオンライン会議に参加し、大量の論文を読む時間ができました。その結果、出産前に論文を書き上げ、それが学会で奨励賞を受賞するなどの成果にもつながりました。この経験が、出産後の研究者としてのキャリアに結びついていったのです。

出産後、クライアントから「子育てとの両立は難しいでしょう」と遠回しに契約を見直されそうになった時、私は数字で反論しました。「私のチームの生産性は御社社内平均より23%高いです。それでも見直しますか?」と。結局、契約は継続されました。

また、別のクライアントでは「お子さんが大変だから…」と仕事を切られそうになったこともありました。しかし、消費財の企業では逆に「お母さんとしての視点があるので、よりリアルなポジションになった」と評価され、それまであまりオファーがなかった消費財のプロジェクトへの道が開けました。さらに、政策立案の案件でも、多様な視点を持つことが評価され、自分でも思いもしなかったキャリアの展開につながったのです。

デメリットもある、でもメリットもある。大事なのは、環境の変化を柔軟に受け止め、良い点を活かして自分だけの強みに変えること。フロレンティナも同様に、感情ではなく「結果」で語ることを選んだキャラクターです。

女性が未来を切り開くための鍵

本書は、フロレンティナのビジネス界・政界での活躍を描くだけでなく、女性が社会の最前線で活躍することの難しさも浮き彫りにしています。特に、日本社会では「女性がトップに立つこと」に対する無意識の偏見が根強く残っています。

フロレンティナが大統領を目指す過程では、多くの妨害や偏見にさらされますが、彼女はそのたびに知恵と胆力で乗り越えていきます。ここで重要なのは、彼女が単なる「能力の高い女性」ではなく、「周囲を巻き込み、支持を得る力を持った女性」である点です。

これは、日本の女性リーダーたちにも当てはまる課題です。単に優秀であるだけでは、リーダーにはなれません。影響力を持ち、人を動かし、支援を得るスキルが必要なのです。フロレンティナの生き方からは、リーダーシップとは何かを学ぶことができます。

成功する女性が持つ“共通点”とは?

私がビジネスの現場で学んだ最も重要な教訓は「一人では何も変えられない」ということです。フロレンティナも同じ教訓を得ます。彼女が政界に入った時、最初は「能力さえあれば認められる」と信じていました。しかし現実は違いました。彼女が本当の影響力を持ち始めたのは、支持基盤を固め、同盟者を見つけてからです。

先日、ある若手社員を重要なプロジェクトにアサインした際、彼女は「自分には荷が重い」と躊躇しました。私は彼女に言いました。「私も最初は不安でした。でも誰も最初から完璧じゃありません。大切なのは、失敗から学び、次に活かすことです。そして、あなたが大きく失敗しても大丈夫なように、上司の私の仕事は下に網を張っておくことです。安心して落ちてください。そして、一緒に上りましょう」と。フロレンティナも同様に、挫折を経験し、そこから学ぶことで成長していきます。

本当の信念はどう生まれる?

取締役会で唯一の女性として発言する時、今でも緊張します。しかし、もはや自分を偽ることはしません。なぜなら、多様な視点こそが企業の競争力になると確信しているからです。

これは一朝一夕で得た信念ではありません。数々の失敗や、時には理不尽な批判を受けながら、少しずつ自分の声を見つけてきた結果です。フロレンティナも同様に、彼女の信念は生まれながらのものではなく、経験から培われたものです。

GE時代、「男性的」であることを求められる中で、徐々に気づいたのは、本当の強さとは自分らしさを失わないことだということでした。ある大きなプロジェクトの失敗を経験した時、上司は「あなたらしさを失ったからだ」と指摘してくれました。それまで「男性社会に合わせなければ」と思い込んでいた私は、その言葉をきっかけに自分のスタイルを模索し始めました。結果的に、それが私の強みになったのです。

あなたの次の一歩は?

先日、ある女子大学でキャリア講演をした際、「女性だからこそできることは何ですか?」という質問を受けました。私は少し考えてから答えました。「それは誤った問いかけです。大切なのは『自分だからこそできること』を見つけることです」と。

フロレンティナの物語から学べることは、「女性であることを言い訳にしない」ということです。彼女は確かに多くの偏見と闘いましたが、最終的に人々を動かしたのは彼女の能力と信念でした。

私自身、経営会議で発言する時、「女性の視点から」とは決して言いません。それは自らの発言を矮小化することになるからです。代わりに「マーケットデータによれば」「顧客調査では」と、事実に基づいて語ります。そして時には、直感に従うことも恐れません。なぜなら経験から培われた直感こそ、最大の武器になることを知っているからです。

『ロスノフスキ家の娘』を読み返して思うのは、この物語が単なるフィクションではないということです。今この瞬間も、多くの女性たちが自分の道を切り開くために奮闘しています。そして私たちが作る道は、次世代の女性たちの歩みを少しでも楽にするものであってほしいと思います。

 あなたにとっての「キャリアの分岐点」は?

その一歩を踏み出す準備はできていますか?

フロレンティナのように、あなた自身の道を切り開いていきましょう。

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私が高校時代から持っている新潮文庫版は絶版となっており、マーケットにはありません。2023年4月にハーパーBOOKSから改訂版が翻訳されて出たので、ご興味のある方は、是非、こちらをお読みください。

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