フジテレビ事件は「特別」じゃない──『集団浅慮』が暴く、組織が壊れる瞬間
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誰も「おかしい」と言えなかったあの会議室で
GEやIBMにいた頃、役員会議の静まり返った空気に、違和感を覚えることがよくありました。決して「意見がない」わけではない。むしろ頭の良い人たちばかりで、情報も豊富。でも、ある方向に話が進み始めると、誰も止めない。
あるプロジェクトでリスクの高い提案が上がったとき、「これって大丈夫なんですか?」と私が発言すると、場が凍りつきました。その後、先輩が「君が正しい。でも、今は言うタイミングじゃなかった」と。
それ以来、私は空気を読むことに長けていったように思います。けれど今、ムスメを育て、次の世代のリーダーたちを育成する中で思うのです。あのとき黙ったことが、本当に正しかったのだろうか、と。
今回ご紹介する『集団浅慮』は、まさにこの「空気」に切り込んだ一冊です。
著者は『嫌われる勇気』で知られる古賀史健さん。本書は、2023年に起きたフジテレビにおける重大な性暴力事件を受けて作成された第三者委員会調査報告書を、古賀氏が丁寧に読み解き、そこから見えてきた組織の病理を分析したものです。
ただし、私がこの記事で取り上げたいのは、フジテレビという特定の企業の事件そのものではありません。
むしろ、この本を読んで気づいたのは、「集団浅慮」という現象が、私たちの日常のあらゆる場面で、静かに、でも確実に起きているということです。それは、会議室の沈黙の中に、学校の教室に、家庭の中に、メールの行間に、「では、このまま進めましょう」という言葉の裏側に、いつも潜んでいます。
これは、芸能界やテレビ業界だけの話ではありません。私たちが日々働く企業や組織で、そして子どもたちが過ごす学校で、今この瞬間も起きている「判断ミス」の正体なのです。